クモ膜下出血で倒れ、数年が経過した。病気で倒れた後、言葉を発する事は出来ず、意志表示はかすかに動く左手と目の動きだけ。そんな新婦のお母さんは、新婦側からすると、唯一の親族、唯一の母だ。
新婦である娘さんからご連絡を頂いた時、直接的に血のつながりのある母に、結婚式にどうしても参加してもらいたい。今は、胃ろうで寝たきりで言葉も発する事が出来ないけど、どうしても、結婚式に披露宴に参加してもらい、お母さんへの手紙の朗読を聞いてもらいたいとオーダーを頂きました。
医師や担当看護師との注意点等の打合せから始まり、結婚式用での導線確認や当日のスケジュールの確認。難しいかもしれないとの意見が相次ぐ中、当日無理があるようならすぐに病院へ引き返せるプランを組みました。
当日、スケジュール通りに行程が進む。久しぶりにメイクさんにお化粧もして頂いた。
結婚式場の配慮もあり、無理なく結婚式にも参加した。
普段から座位体制になることがほとんどなく、寝たきりの状態。しかし外出し結婚式の参加となるとどうしても座位にならなければならないし、外気にあたると身体にもこたえる。だから、少しでも負担を減らすために、別室で横になって頂く時間を多めに取る。
披露宴の最後のシーン、新婦からのお母さんへの手紙が始まった時、お客様はしっかりとその方向を見ていた。娘さんから伝えたいことがきちんと伝わっていたのかどうか、表情から見取ることはできなかったが、確かに耳を傾けていた。
最後の最後、お母様に直接話しかける娘さん。感極まった様子で「お母さん!」と大きな声で叫ぶと同時に、多くの涙が溢れ出る。綺麗なウェディングドレスのままお母様に抱きつくと、お母様の左手がかすかに動いた。そして左目からキラっと光る、小さな涙がこぼれおちた。
思わず、私自身の涙腺も緩む。しっかりと感じとって頂けたんだ、娘様の結婚式を。しっかりと声なき声で伝えられていたんだ、祝福の想いを。
しゃらく旅倶楽部のお客様から、また大きな感動をいただきました。