奥様を故郷の和歌山県まで連れていきたいというご主人からのご希望で実現したYさん夫婦のご旅行。
ご夫婦は80代で奥様はここ数年で認知症が進み、ご自宅から出ることや旧知の方たちに会いに行くことも不安に思われるようになっていました。奥様は「故郷まで戻りたい」という気持ちのある反面、「迷惑を掛けたくない」という葛藤に最後まで悩まれており、今回の旅行も進んでは戻りを繰り返した末にようやく実施となりました。
日程は2泊3日。宿泊先は奥様のお姉様の息子さんが経営する民宿にお世話になることになりました。
しかし、ここで一つ問題が。ご夫婦とも歩行は杖をついてようやく可能。5センチ程度の段差でつまづいてしまうこともあります。そんな中、ご主人たってのご希望で泊まりたいというその民宿にバリアフリー設備はなく、お部屋の入り口からトイレ、食堂まで段差だらけ。奥様は夜中も2、3時間に一度はトイレに行かれるとのこと。
そこで今回の旅はヘルパー資格を持ったドライバー1名(男性)と女性ヘルパーが同行することでプランニング。
神戸から片道5時間。ゆったりと休憩をはさみながら和歌山は熊野古道のほど近く。中辺路町へ到着。到着すると甥っ子さん夫婦のお出迎えを受け、その日はゆっくり休むことに。
翌日、奥様のお姉様のお宅にお邪魔し、久しぶりの対面。その後、姪っ子さんたちも遊びに来てくれて懐かしい方たちとの8年ぶりの再会。
奥様は、最初なかなか馴染めずに緊張した面持ちでしたが、一度お話が始まると少しずつではありましたが思い出話に花が咲いていました。それを優しく見守るご主人。
お話の間、奥様はしきりに「皆に迷惑をかけてしまって申し訳ない」と仰っていました。しかし、それに答える甥っ子さんたちは「今までおばさんに、皆たくさんお世話になってんだからこれからは遠慮なく世話してもらったらええんよ」と口を揃えておっしゃいます。
そんな姿を見ていると、今回のご旅行をお手伝いさせていただけることを嬉しく思うとともに、人の生き方はその周りの人達によって現されるものなのかなと学ばせていただいたような気がします。
あっという間に時間は過ぎ、帰る日の朝。
その日は朝から奥様のお顔つきが昨日までと明らかに違います。昨日まではしきりに不安を口にしながら、会話もかみ合わない時もありました。
しかし、その日の朝はどこかシャキッとされていて、ご家族との会話もスムーズに。ひとときではありましたが、久しぶりの再会を果たし、奥様のお体にも心にも何かしら変化が生まれたのではないだろうか、とそう思えるご様子でした。
最後のお別れの時には涙を流す奥様に甥っ子さんが「また来たらええやん」と「また来れるかな?」と奥様。ご主人も笑顔で「また来ような」と優しくおっしゃる姿が印象的で。また、行く際にはお声掛けいただければと思います。